2015/7/30 サードウェーブを今更考える
おそらく今年の流行語大賞にもノミネートされることでしょう。そして今や独り歩きを始めた感もあるこのワード。

ただウチのお客様の間では「別にどうでもいい」というスタンスなのか意外と認識されておらず、また個人的にちょっと思うこともありますので少々書いて見たいと思います。(長いです。)

サードウェーブ(第3の波)
『豆の産地やばいせん方法にこだわり、1杯ずつ丁寧に淹れるコーヒーを指す。コーヒー豆の生産技術や流通網の発達でコーヒーが身近になった「第1の波」、専門店がチェーン展開した「第2の波」に続く、新しい潮流を意味する。米国のコーヒー業界で広まった表現とされる。』
〜ある日の読売新聞より抜粋〜

あくまでもアメリカ発祥の「波」ですが、その都度(多少形を変えながら)日本へも入ってきているわけです。そのキーワードとしてはこんな感じでしょうか。

「第1」1970年代〜
⚫喫茶店、マスター、自家焙煎
⚫ブルマン・モカ・キリマンジャロ
⚫MJBブレンド、違いの分かる男(ネスカフェゴールドブレンド)

「第2」1990年代〜
⚫スタバ、タリーズ
⚫エスプレッソ、ラテ、カプチーノ
⚫フレンチロースト、イタリアンロースト

「第3」ゼロ年代〜
⚫ブルーボトル
⚫スペシャルティコーヒー
⚫浅煎り、ハンドドリップ

「第2」で大きくなり過ぎたコーヒー市場への反動のような形で、主にアメリカ西海岸を中心に広がったムーブメントが「サードウェーブ」です。
豆もエスプレッソ用に深煎りのマシン抽出がメインだったのを、本来の個性が分かりやすい浅煎りの豆を手で淹れる。質の良いコーヒー生豆がどんどん生産されるようになった時代背景も伴っています。まるで果汁のようなフレッシュ感溢れるコーヒーはちょっとした驚きでした。
また元々お金の無い小さなロースターが、使われていない倉庫などを自分たちで改装した独特のオシャレ感ある内装なんかも新鮮でした。それはまたたく間に広がり、大きな「波」とまでなったのです。

でもね。

『豆の産地やばいせん方法にこだわり、1杯ずつ丁寧に淹れるコーヒーを指す』

ってのはちょっと大雑把過ぎです。
そんなの自家焙煎の喫茶店のマスターはずっと昔からやってます。それが「新しい」っていうのは逆に今までどんだけ丁寧に淹れてなかったんだと。

ブルーボトルの社長は日本の喫茶店文化を大変リスペクトしてくれており、『カフェバッハ』や渋谷の『羽當』には来日の度に行くそうです。ブルーボトルで使っている陶器の一つ穴ドリッパーは、バッハと同じ日本のボンマック製だったりします。
つまり日本ではずっと当たり前に存在していたコーヒー文化が逆輸入のような形で入ってきた、という側面もあるわけです。

で結局何が言いたいかというと、「別にそんなにありがたがる必要は無い。」ということです。
日本には多くのマスターたちが長年培ってきた素晴らしいコーヒーや喫茶の文化があるのに、そんなに一喜一憂して持ち上げることはありません。あんなドリップスタンドみたいなので2〜3杯まとめて淹れやがって、もっと気持ち込めろや!くらいのスタンスでよいかと。

解せないのはユーザーだけでなく、業界内でもそっちに寄って行こうとする動きが強いこと。『生豆商社主催・清澄白河サードウェーブコーヒーショップツアー』なるものが行われてたり。。。自分で勉強しようよ。大勢で来られる店もいい迷惑だよ。

もう一つ言うと、本来サードウェーブは「考え方」とか「思想」とかがあった上での「ムーブメント」なわけで、決して「スタイル」ではありません。
その呼称も、同じ時期・近いエリア・似た考えの人たちが盛り上がったのを誰かがそう呼んだだけで、彼らは自分たちを「僕たちサードウェーブです。」とは言わないだろうし、店のロゴに「サードウェーブコーヒー○○」とか入れてる店があったとしたら、それはあくまで「サードウェーブ風の店」ということなんだと思います。

なのに何かムーブメントが盛り上がってくると、そのスタイルだけが先走りするのはよくある構図です。主に大きな資本と一部マス媒体の仕業なんですけど、それにしてもここ最近の騒ぎは中身が浅い。。。浅いのは焙煎だけでいいのですが。
やはりユーザー側がその辺りをよく気にしてないと、結局は何処かの誰かの思うツボということになり、一過性のブームで終わって文化としては根付かないのでしょう。

ただスタート地点が違うなりにも日本独自の「サードウェーブ」発展の仕方はあるはずで、牽引している若手のロースター達なんかはこの盛り上がりを余所に、ちゃんとその辺分かってるんだろうとも思います。誰とも面識は無いのであくまでそんな気がするだけですが、そこは救いかなぁ。

最近では「サードウェーブ系男子」なるワードも生まれ、辛酸なめ子なんかにネタにされてしまってる部分もあるようです。
付き合ってる彼氏がサードウェーブコーヒーにハマり、ウンチクを語ったり上質なライフスタイルみたいなのを押し付けてくるようになって正直ウザい、というもの。
そしてその中の一部男子たちの間では、「次は純喫茶」的な盛り上がりが注目され始めているというもの。。。
ここまで行くと完全に独り歩きだよな〜

サードウェーブ系男子と付き合う女性 時々ウザい状況を語る
サードウェーブコーヒー流行で昔ながらの純喫茶再評価の動き

これから先、「純喫茶風の店」がたくさん出来てくるのかと思うと、かなり複雑な思いにも駆られます。。。

いろいろ書いてしまいましたが、多くのスタイルがあった方が何かと面白い、というのもまた事実です。コーヒーなんて本当に個人の嗜好が反映するものだと思います。いろんなコーヒーを飲んで、気に入ったものを選べばいいだけです。

ただ米とか野菜とか服とか何でもそうですけど、表面的な情報だけでなく「そこにある店(主)の思い」みたいなのを感じ取ることが大事なのかなぁと思うのです。そして店をやってる人間からすると、それは嬉しい事この上ないものです。

ウチの店はほぼ「家で毎日飲むコーヒーが少しでも美味しくなれば」に特化してやっちゃってるので、時間かかるし喫茶も無いしスペシャルティも少ないですが、それでも来店して下さるお客様は何か感じ取って下さっているのだと勝手に思い込みながら、今日も豆を焙煎しています。
by kunicoro | 2015-07-30 15:20 | 店主雑談
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